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老婆との再会

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平成16年3月4日夜。
約1ヶ月ぶりに我が家に戻った。
途中、見慣れていた街の風景に、妙に新鮮感を覚えた。
寒さはまだ厳しかったが、春の訪れを感じさせる冷たい夜風がとても心地よかった。真冬のひと月を極寒の留置場で過ごしたが、春が一度に来たような気分だった。

東警察署を釈放されるとき、親しくなった年配の留置課の警察官から、O弁護士が肩の荷が下りてほっとしたと言っていた、ということを耳にした。彼とは時間的にすれ違いになり、釈放時に会えなかったのである。

この1ヶ月間、90歳に近い老いた母親が、家にいない私を毎日心配していたと言う。心配をかけないよう所在と事情を伏せていたのだ。私も親であるとともに子供でもある。子供というものは、いくつになっても、親から見れば、心配の種なのかもしれない。

もう一人、心配をかけた老婆がいた。
この老婆は、生後5ヶ月で我が家にやってきたが、小さい頃から凶暴で野性味が強く、人には懐かない性格だった。家族の言うこともなかなかきかず、私が家にいないと、吠えまくってよく近所から苦情が出た。
そのくせ、心配性で気が小さく、旅行で一晩でも犬のショップに預けると、寂しがってクーン、クーンと泣きまくっていたほどである。
この老婆が一目置いていたのは、私だけだった。エサや散歩の世話などを、私一人ですべてやってきてかわいがったせいもあるが、我がままを許さず、厳しく躾してきたせいもあるのかも知れない。
この老婆は、人間の歳だと80歳近い雌のシェパード犬だが、私が逮捕されてから、盛んによく吠えるようになったという。
もう一匹、いたずらばかりするのでチンピラと呼んでいるラブラドールリトリバー犬がいる。こちらは愛嬌がよく人懐っこい性格であるが、私がいなくなっても、全く変化はなかったらしい。

家に着いて庭に入ると、びっくりしたように私を見た。二匹がである。
普段はラブラドールのチンピラ犬が、尻尾を激しく振って寄ってくる。シェパード犬の老婆は歳をとったせいか、動きが緩慢で、最近は尻尾も振らず、のろのろと顔見せに犬小屋から出てくるだけだった。

ところがこの日は、私を見つけるなり、びっこを引きながら飛びかかるように寄ってきたのは、なんとシェパード犬の老婆だった。
ウォーンと嬉しそうな声を上げるなり、盛んに私の顔を舐めてきた。この老婆が私の顔を舐めるのは、もう何年ぶりか記憶にないほどである。舐めて舐めて舐めまくってきた。
「わかった。もういい」
と、手で防ごうとしてが、それでもやめなかった。
しゃがんでいた私は、犬の体重に押され、そのまま押し倒されるように芝生の上に転がった。

見ると、夜空に無数の星が瞬いていた。
(きれいだ)
と、心底思った。
今まで忙しい日常に追われて、自分が星の美しささえ忘れていたことに、そのとき初めて気づいた。

Burogu

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