控訴審裁判:その5(上告)

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控訴審判決の後、弁護士会の控え室で打合せを行った。
判決終了直後は、3人の弁護人全員が一様に厳しい表情だったが、打合せのときは、表情がかなり緩んでいた。
私だけが、険しい表情をしていたのかもしれない。

一審判決が破棄され、罰金50万円に減刑されたことで、被告弁護側とすれば、大きな前進である。
一審の伊藤新一郎裁判官のデタラメな判決が破棄され、事実認定においては被告人側の主張が全面的に認められたのだ。

ただ、国税、検察、警察という鉄のトライアングルは非常に強固であり、この強固なトライアングルは、裁判所も無視できなかったようだ。
また、一審で有罪が下されている以上、高等裁判所としても、それがデタラメな判決とはいえ、その身内の判決結果も無視できなかったのだろう。

判決理由には、一審判決を批判し、かなり被告人側に配慮した文言が見られたが、同時に検察官の訴因の変更を認めたうえ、被告人の故意も認めて、結果的に一審判決と結論的には同一部類に属する有罪判決を下すところに、保身を図る裁判官のずるさがあった。

刑事の裁判官は、無罪判決を出すことを極度に嫌うので、立証上、有罪判決が出せないようなときには、検察官を個別に呼んで相談することが多いという。
今回の控訴審の進行状況を見てみると、あくまで推測だが、このままでは有罪判決が出せないと見て、裁判官が検察官に訴因の変更を慫慂(しょうよう)した疑いが強い。


一審において起訴された事実で2年近くも争ってきて有罪になったのだ。一審の証拠では控訴審で有罪が維持できないとなれば、無罪判決を出すか、一審判決を破棄して差し戻すべきではないか。
一審で有罪に導いた起訴事実を、控訴審で勝手に変更して有罪判決を下すようなやり方は違法である。
そのような訴因の変更は、まだ最高裁の判例はないものの、下級審では違法とする判例がある。

国税、検察、警察という強固な鉄のトライアングルに加えて、統計上、無罪率が0.1~0.2%という厳しい現実が立ちはだかるが、可能性がゼロではない以上、諦めるわけにはいかない。
最後の最後まで闘い抜く決意を込め、その打合せの場で、私は迷うことなく上告の手続きをした。

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控訴審裁判:その4(資格停止)

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控訴審における罰金刑の判決は、私の一身上にも影響がある。

一審判決は、懲役6ケ月、執行猶予3年であった。
これは、私のような国家資格者にとっては、職業上、致命的な痛手となる。
法律上、不動産鑑定士は、刑事事件で禁固以上の刑に処せられた場合、執行猶予期間中は、業務を行ってはならないことになっているからである。

不動産鑑定士といっても信用商売である以上、3年間も業務が停止されれば、事実上廃業したに等しくなる。

当初、罰金刑の規定のなかった公務執行妨害罪での本裁判では、裁判官に罰金刑で逃げられる心配がなかった代わりに、無罪以外は許されないという大きな重圧が弁護団に重くのしかかっていた。それは、こうした事情があったからだ。

今回の罰金刑への減刑は、そういった職業面での不利益を払拭することには役立ったわけである。

だが。
私は、逮捕されたとき、不動産鑑定士の道に入って、すでに20余年経過していた。
仕事では誰と比べても決して劣るとは思わなかったが、かといってこの業界で自分が必要不可欠かといえば、そうでもない。自分の代わりなど、いくらでもいる。
役人にぺこぺこして頭の上がらない業界の人間に幻滅していたし、保守的で閉鎖的な考えしかできない同業者の多いことにも嫌気をさしていた。
ひとつのことを長くやればよいというものでもなく、長すぎればマンネリ化して堕落していくのが、人間の常である。よくぞ、20年以上も続けてこれたものだと、自嘲していた頃でもあった。
定年のない世界であるが、定年がないからこそ、逆に自ら引き際を考えなければならない。
短い人生である。自分は、何のために生まれてきたのか。
地位や資格や既得権益にしがみつくために生まれてきたわけではない。自分がやらなければならないことは、何かほかにあるのではないか。
そんな思いにとらわれていた時期でもあった。

0弁護士から、有罪になると資格が停止されるという指摘を受けたときも、
「資格停止のことは全然気にしていませんから」
と答えたが、これは、表向きの強がりでも、弁護団に必要以上のプレッシャーをかけまいとする配慮でもなく、当時の心境から正直な胸のうちを語っただけである。

有罪になって資格が停止されれば、それを機会に新しい人生が開けるかもしれない。
そんな思いでいただけに、資格停止を払拭する今回の罰金刑の判決には、複雑な感慨がある。


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控訴審判決:その3(罰金刑の評価)

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一審判決を破棄し、罰金50万円に処すという今回の控訴審判決を、どのように評価するかという問題がある。
事実認定において被告人側の主張をほぼ全面的に認める結果になったことは、前向きに評価していい。

少なくても、これで最悪の事態は免れることになった。
一審判決をそのまま指示し、控訴を棄却するという判決が出された場合、こと刑事事件だけにとどまらないところが、本事件の根の深さである。

つぼを破損して謝罪も弁償もせずに逃げた国税職員の不法行為による損害賠償請求事件の控訴審にも、影響が及ぶおそれがあった。これまで有利に進めてきた税務訴訟にも悪影響が及ぶおそれがある。

ことに、つぼ破損による民事訴訟は、一審で被告国側の主張していた正当防衛を完璧に否定して、5万円のつぼ代金の支払いを命ずる判決が出されたのであるが、国側は4万円の担保を提供し、仮執行宣言付判決による強制執行の停止まで申し立てて、控訴してきた。
そのため、この5万円のつぼ代金をめぐる控訴審に、私は弁護士に着手金だけで90万円を支払って応訴し、現在訴訟中なのである。

この民事の控訴審で、国側は、刑事事件の一審の有罪判決の理由を引用する傍ら、刑事の控訴審でも、一審の有罪判決がそのまま維持され被告人の控訴が棄却されるものとして、控訴理由書や準備書面で、見苦しい理屈をもっともらしく並べ立ててあれこれ反論しているのだ。
控訴審で一審の有罪判決がそのまま維持され控訴が棄却されると、民事の裁判官もそれに習って国側勝訴の判決を出さないとも限らない。

竹山、河地両財務事務官(特別国税調査官)の証言は信用できないとして、一審判決を破棄した以上、そういった民事の逆転敗訴の心配はなくなったと見てよい。最悪の事態は免れることになったわけである。

更に重要なことは、竹山、河地両財務事務官の証言の信用性が否定されたことで、国税のメンツは丸潰れになったことである。
国税当局は、彼らの証言のみを根拠に争ってきたわけであるから、組織ぐるみで彼ら
職員の偽証に加担して不正の発覚のもみ消しに全力を注いできたことになり、当然その責任は免れまい。

私としては、国相手の苦しい闘いにおいて、これでとりあえず前面敗訴はなくなったといえるのである。少なくとも、意図したとおり、相打ちまでには持ち込めそうな気配となった。

そう考えると、今回の判決は不服ながらも、全く評価できないものではない。
事実、弁護団は、私の腹のうちとは異なって、かなり前向きに評価している。
検察側とすれば、大きな後退であり、反面、被告人側とすれば、大きな前進ともいえるのだ。

もう一つ、私の一身上の面での評価もあった。

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控訴審判決:その2(罰金刑で逃げる)

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一審の刑事裁判の過程において、弁護団が心配したことの一つに、裁判官が罰金刑で逃げるのではないか、ということがあった。

日本の裁判官は、無罪判決を出すことを極度に嫌う。
給与や人事で国の統制下にある国家公務員という立場に加えて、無罪率が統計上0.1~0.2%前後で限りなくゼロに近い現実に、社会的影響力の大きな無罪判決を出す勇気が、保守的な裁判官にないことによる。

従って、無実と思われる事件でも、罰金刑の規定のある犯罪では、それを科して無罪判決を避ける方法を取る。
罰金刑でも一応有罪ではあるが、資格停止等の社会的な不利益はないため、生活上の影響は全くといっていいほどない。
判決に不服でも、控訴、上告して争うことによる時間的、経済的な実質的不利益を考えると、上訴を断念した方がはるかに得である。被告の反発も抑えられる。
現実的な調整であり、裁判官の姑息な逃げの戦術である。

私の容疑の公務執行妨害罪は、従来、禁固刑、懲役刑のみで罰金刑の規定がなかった。
しかし、起訴猶予が多かった公務執行妨害、窃盗等の犯罪に、罰金刑を新設して法定刑を改めるため刑法の改正作業が進められてきた。
判決の時期によっては、罰金刑の導入された改正刑法の規定が適用される可能性が出てきたのだ。

一審判決は、刑法改正の前であったが、今回の控訴審判決は、今年4月に成立し5月から施行された改正刑法が適用されるため、罰金刑の判決が可能になった。
一審判決を破棄し、事実認定において被告人側の主張をほぼ全面的に認めながら、社会的影響の大きな無罪判決を避け、一応有罪である罰金刑を科すことで、高裁の裁判官に逃げられた格好になったわけである。


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控訴審判決:その1(破棄・有罪)

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昨日(11月27日)、名古屋高裁で刑事事件控訴審の判決があった。
主文は、一審判決を破棄し、被告人を罰金50万円に処す、というものである。
一審判決を破棄しながら、無罪ではなく、有罪判決を下すというめずらしい判決であった。

門野博裁判長は、一審判決における有罪の根拠となった被害者(竹山孝特別国税調査官)及び目撃者(河地隆雄特別国税調査官)の証言は全く信用できないとして、事実関係については被告人側の主張をほぼ全面的に認めたが、同時に、検察の請求した訴因の変更も認めて間接暴行を根拠に有罪判決を下したのである。

訴因の変更とは、当初の起訴事実を変更し、その変更した事実で有罪判決を求めるものである。
具体的にいえば、

<被告人は、平成16年1月23日午後2時25分ころ、名古屋市○○○○号室において、被告人の所得税等の調査に訪れた名古屋中税務署財務事務官竹山孝(当56年)に対し、「うそばっかつくな。」などと怒号しながら、その身体に向けて数本のカセットテープを投げつける暴行を加え、もって同財務事務官の職務の執行を妨害したものである。>
という一審における当初の起訴状の事実を、二審で、

<被告人は、平成16年1月23日午後2時25分ころ、名古屋市○○○○号室において、被告人の所得税等の調査に訪れた名古屋中税務署財務事務官竹山孝(当56年)に対し、「うそばっかりつくな。」などと怒号しながら、同人の傍らにあった応接コーナー用パーテーションに向けてケース入りのカセットテープを思い切り投げつける暴行を加え、もって同財務事務官の職務の執行を妨害したものである。>
という事実に変更して有罪判決を求めてきたのである。


高等裁判所は、事実誤認があるとして一審判決を破棄したものの、検察の請求した訴因の変更は採用し、竹山財務事務官の身体に向けて数本のカセットテープを投げつけたのではなく、パーテーションに向けて1本のカセットテープを投げつけただけであっても、公務執行妨害における間接暴行に当たり、故意も認められるとして、有罪判決を下したのであった。

ただ、刑は懲役6ケ月、執行猶予3年から、罰金50万円に大幅に減刑されている。

疑わしきは罰金刑で逃げる、というのが裁判官の常套手段だが、まさか二審でその手を使われるとは、予想だにしなかった。


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